8020で健康長寿 「噛む力」で認知症を防ぐ 歯が抜けたらすぐに処置を
近年、「歯と内蔵疾患」の関係に注目が集まっています。糖尿病、心臓疾患など、特に高齢者が警戒しなければならない病気の発症要因に、歯や口腔環境が関係していることがわかってきたのです。そんな中、今残っている歯の数と認知症の発症に関連性があることが分かってきました。
「8020運動」をご存知の方は多いと思います。健康長寿を目指すうえでの一つの指標で、80歳になった時に自分の歯が20本以上残っていることを目標とする啓発運動です。この「20本」という数字には意味があります。人間の歯は「親知らず」を除いて上下14本ずつの計28本。このうち最低でも20本が残っていれば、生理学的に見て最低限の咀嚼能力を維持することが可能と考えられるのです。
8020運動は、咀嚼機能の維持を目的に始まった取り組みですが、認知症予防にも役立つことが、わかってきました。残存歯数が多いほど、認知症になる危険性が低いというものです。
日本人の死因の上位を占めるがん、心臓病、肺炎、そして脳血管疾患。中でも脳血管疾患は口腔に近い「脳」の障害です。そこに何らかの関連性を疑い、脳血管疾患を持つ人とそうでない人の口腔衛生状態を比較検討しました。
その結果、重度の歯周病を持つ人は、健常者や軽度の歯周病患者と比較して、脳血管疾患の発症率が4,3倍も高いことがわかりました。
「歯根膜」が脳を刺激
人がものを噛む時、常に同じ力で噛んでいるわけではありません。上下の歯でその物体を挟んだ瞬間、硬さ、大きさ、質、量などを瞬時に計算し、算出された「適度な力」が脳からの指令として筋、顎などの関係器官に伝えられることで、歯や顎などにダメージの及ばない力で、確実に噛み切ることができるのです。そしてこの時、最初にその物体の詳細な情報を脳に送るのが、歯根膜、口腔粘膜にある感覚器の役割です。
歯根膜は、歯と一緒に失われます。つまり歯と脳の間で行われている微細で精密なやりとりが、歯を失うことでできなくなってしまう。これは脳の刺激、活性化に大きな損失です。このあたりに残存歯数と認知機能の関係のカギがあるのです。
ならば、一度歯を失ってしまったら認知症に向かってつき進むことになるのかといえば、決してそんなことはありません。
歯を失っても、義歯やブリッジを入れれば、歯根膜以外の口腔粘膜にある「感覚受容器」というセンサーが働き、完全ではないものの歯根膜の代替機能を果たします。インプラントであれば骨膜が残っているので、やはり歯根膜の代わりの役割を果たしてくれます。つまり、歯を失って放置することが、認知症予防の上では一番危険なことなのです。
気をつけてほしいのは、単に「残存歯数が多ければいい」ということではないという点です。たとえ20本の歯が残っていたとしても、それぞれの歯が「噛む」という機能を維持できている必要があります。つまり上下の「噛み合う相手」の歯があることが重要なのです。下の歯は14本あるけど上の歯はバラバラに6本しか残っていないというのでは意味がありません。
歯が抜けたら処置をする、それ以外に歯が抜けないように口腔ケアをすることが、健康長寿には不可欠です。かかりつけの歯科医師を持ち、定期歯科検診を欠かさないことが大前提なのです。
歯は生体の一部であり、様々な臓器の健康に直結する“器官”だという認識を持って、積極的に口腔ケアに取り組んでほしいと思います。
噛めなくなることが引き起こす障害については、こちらも参考にして下さい。
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